お弁当の秩序と無秩序

概要

京大正門前の弁当屋のメニューに法則はあるのか? 調べてみた。

はじめに

正門前の弁当屋の弁当の例
図1: 正門前の弁当屋の弁当の例

3年前に今の研究室にやってきてから、平日のお昼ご飯のほとんどは正門前の弁当屋で買っている(図1)。 似たような弁当の屋台は北門のところにもあるが、こっちの方がメニューが豊富で美味しいし、お兄さんの愛想もいいので通うことにした。 ちなみにお値段は550円で、今となっては学食より安い。

ある日弁当を食べながらふと思った。 この弁当のメニューに法則はあるのだろうか。 つまり、前日までの弁当の履歴から翌日の弁当が言い当てられるのか、それともランダムなのか。 この記事では1年間にわたって取ったデータを元に法則を推測し、それを検証する。

推測の戦略

本腰を入れて法則を考える前に、まずは予備的調査で解き方を考えよう。 しばらくデータを取ってみると以下のことがわかった。

弁当の区画
図2: 弁当の区画

というわけで僕の作戦は、「区画Bに丸い餃子が入っている弁当を毎日選びながら、区画BとCのパターンを考える」ことだ。 データの欠損を防ぐため、研究室の皆さんにも協力してもらい、弁当の写真を撮ってSlackの #正門の弁当 チャンネルで共有した。 自分以外は当然丸い餃子のセット以外も選ぶので、区画Cは観測できたのに区画Bが欠損している日もある。

結果

上記の作戦のもと1年間にわたってデータを取得した。 1年間でいろいろなことがあった。 例えば僕が丸い餃子を毎日選んでいることが店のお兄さんにバレてしまって、お兄さんはメニューの説明を省いて丸い餃子が入っている弁当を自動的に渡してくれるようになった。 餃子入りの弁当が売り切れそうになるとお兄さんがこっそり1食分だけ残しておいて、僕が来た時にしたり顔で奥から出してくれることもしばしばあった。 さらに、日によってはどの弁当の区画Bにも丸い餃子が入っていないことがあるのだが、そういう日に1食分だけ餃子入りのお弁当を作ってくれた時は驚いた。 餃子が好きで選んでいるわけではなく、むしろ特注で作ってもらうと法則が乱れるので僕としては好ましくない。 でも流石に言い出せなかった。 法則を探していることはお兄さんには内緒だ。

また、箸袋が変わったり、弁当の容器が変わったり、値段が変わったり、ご飯大盛りのシステムが変わったりと、お兄さんの盤外戦術に翻弄されることも多かった。 もしかしたら、僕らが区画BとCのパターン認識に熱中することで視野狭窄に陥っているということを教えようとしているのかもしれない。

区画BとCの1年間のデータは次のとおり。

区画B下とCの1年間のデータ
  1. 区画Bの丸い餃子のセットでは、上側のポテトサラダはほぼ固定で、下側はほうれん草と小松菜といんげんのどれかが出る。これらをB下のおかずと呼ぼう。
  2. B下のおかずはほとんど曜日によって決まる。
  3. B下のおかずのルールの壊れ方にもルールがある。つまり、曜日のパターンを逸脱するかどうかは祝日の有無でほぼ完全に決まる。
  4. 祝日がある週でも金曜日がずれることはなく、必ず小松菜が出る。
  5. 26年4月だけ1週間ではなく2週間を単位とするパターンに挑戦していたみたいだが、逆向きの周期倍分岐が起きて5月からは曜日で決まるようになった。
  6. 区画Cの方はBと比較すると一見ランダムのようだ。しかしよくみるとそうではない。
  7. まず、同じメニューが連続して出たことは1度もない。
  8. 同じメニューが週3回出ることもほとんどない。今までこれが破られたのは7月第5週と10月第5週と2月第3週の3回だけで、いずれもきんぴらが月水金に出た。
  9. 週3回出ることがないので、必然的に2種類のメニューが週2回、1種類が週1回出ることになる。このうち切り干しが週2回出ることはほとんどない。例外は6月第2週と12月第2週と第4週の3回だけ。
  10. 水曜日が切り干しが多く、逆に切り干しは水曜に多い。
  11. 翌日のメニューとの共起関係
    図3: 翌日のメニューとの共起関係
  12. 切り干しの翌日にはきんぴらが出ることが多い(図3)。
  13. 金曜日と翌営業日の区画Cは異なることが多い。 金曜とその翌営業日が両方観測できたのは今まで39回で、そのうち33回は異なるメニューが出た。
  14. まとめると、区画Cにも弱い法則があり、それは区画Bの法則とは独立している。僕は初め二つが同じ法則で共起するか、そうでなければランダムに出るのが自然だと予想していたので、二つの独立したルールがあることを知って意外に思った。

実証

上記の法則を検証するために、3月23日から始まる1週間のメニューを予想してみよう。

3月23日(月曜日)

早速だが月曜日を当てるのが一番難しい。 法則7と8を使って選択肢を狭められるのは火曜日以降だからだ。 ただし法則2と3を踏まえて、区画Bはほうれん草が出ると強く推定できる。 区画Cの推定には法則12を使いたいところだが、先週金曜日の3月20日は祝日だった。 金曜が祝日になるのは珍しいので確かなことは何も言えない。 特に先週木曜にきんぴらが出たということを、金曜に出るべききんぴらがずれて木曜に出たと解釈するべきか、それとも金曜はひじきが出るはずだったと解釈するべきかわからない。 一か八かで後者の解釈を採用して、翌営業日である月曜はきんぴらが出ると予想しよう。

予想:区画B ほうれん草、区画C きんぴら(クリックして結果を表示) 結果:区画B ほうれん草、区画C きんぴら(的中!)

3月24日(火曜日)

今週は祝日がないし、月曜に予想通りほうれん草が出たので、法則2から区画Bは曜日通り出ると考えていいだろう。 区画Cの方は法則7からきんぴらは出ず、切り干しは水曜に出ることが多いので、消去法でひじきが出ると思う。

予想:区画B 小松菜、区画C ひじき(クリックして結果を表示) 結果:区画B 小松菜、区画C ひじき(的中!)

3月25日(水曜日)

水曜日が一番楽に予想できる。 区画Bは疑いようもなくいんげんで、区画Cは法則7と10から切り干しが出るだろう。

予想:区画B いんげん、区画C 切り干し(クリックして結果を表示) 結果:区画B いんげん、区画C 切り干し(的中!)

3月26日(木曜日)

木曜日は週で2番目に予想が難しい日だ。 区画Bはいつも通りほうれん草でいいが、区画Cの方は法則7と8と9を使っても一意に定まらない。 ひじきときんぴらのどちらが出るか、唯一使える根拠は法則11だが、やや例外が多いのが気になる。 でも仕方ないのできんぴらで行こう。

予想:区画B ほうれん草、区画C きんぴら(クリックして結果を表示)
図4: 3月26日の弁当
結果:区画B なし、区画C:ひじき(外れた!)
懸念していたように区画Bでひじきが出てしまった。 法則11が完璧ではないということだ。 また、この日は区画Bに丸い餃子が入るセットが無く、B下のおかずも(ほうれん草/いんげん/小松菜)以外しかなかった。 ここ制作者の奇妙なこだわりが現れていると思う。 今までのデータを見ると、丸い餃子ではないロールキャベツや信田巻きのセットにもほうれん草や小松菜が添えられる例はあった。 しかし逆はない。つまり丸い餃子に非典型的な副菜が添えられることはない。 丸い餃子と副菜は別々で仕入れて別々に仕込むと思われることを踏まえると、今回はほうれん草が切れたから丸い餃子を入れるのをやめたとしか考えられない。 こういうこだわりの原因は全くの謎だが、ランダムではないというのは好ましいことだと思う。 いつかは餃子が出ない日をも推定できるようになりたい。

3月27日(金曜日)

気を取り直して金曜のメニューを予想しよう。 金曜の区画Bは小松菜以外が出たことがないので(法則4)、欠品しない限りは小松菜と予想していい。 また区画Cは、法則7と9からひじきと切り干しが出ないとわかるので、消去法できんぴらが出ると予想できる。

予想:区画B 小松菜、区画C きんぴら(クリックして結果を表示) 結果:区画B 小松菜、区画C きんぴら(的中!)

おまけ:AIはこの問題を解けるか?

僕がやったパターン認識は機械にもできるだろうか。 最近流行りのLLMは次単語予測(Next-token prediction)が得意なので、次メニュー予測もやってくれそうな気がする。 というわけでgemini 3.1Proに聞いてみよう。 聞き方はいろいろあると思うが、まずは一番単純にCSVをそのまま貼り付けてみた。 リンク:https://gemini.google.com/share/3eb7ac77d987

結果は的中率70%で、僕の記録80%よりは低かったが思っていたよりもずっと高かった。 さらに特筆するべきは外し方も僕と似ているということだ。 AIは月曜日にきんぴらではなくひじきと予想したが、これは僕も一番悩んで半分博打で決めたところだ。 また、木曜日のほうれん草/きんぴらという予測も僕と同じ間違い方だ。 つまり法則11を認識できているような気がする。 30日以降の予測がメチャクチャなのは了解できないが。

まとめ

1年間にわたって弁当のデータを取り、いくつかの法則を見出すことができた。 最後の1週間でルールを検証したところ、的中率は80%だった。 ここまでうまくいった理由は解くべき問題を絞ったからに他ならない。 というわけで来年度は、区画Bの丸い餃子以外のセット、ひいては区画Aのメインのおかずも予測することを目標としたい。

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