初めて研究集会を主催した

2026年7月29日に研究集会を主催した。 正確にいうと主催したのは僕の所属する数理脳科学若手の会だけど、発案や運営などほとんど僕の裁量でやらせてもらった。 その時の感想を書こう。

テーマはずばり「神経科学における『良い理論』とは」だった。 当たり前だけど僕はいい研究をしたいと考えているし、それは他の研究者だって同じだと思っているが、では何が良い研究で何が悪い研究なのか、面と向かって意見を交わす機会は意外と少ないと思う。 台風の目と言っても良いかもしれない。 そういうためらいがテーマの中のカギカッコに表されていて、あえてそれを無視して議論してみましょうというのがこの研究集会の狙いだった。 どの分野の研究者を呼んでも面白くなると思うし、実際あえて遠い分野の方に声をかけようとも思ったが、初めての主催ということで自分の分野である理論神経科学の先生を集めることにした。 その方が演者も呼びやすいし顔も売れるしね。

お呼びしたのは指導教員の寺前順之介先生と磯村拓哉先生と渡邉正峰先生だ。 理論神経科学の研究を大雑把に分類すると

  1. 脳の性質を備えたある程度単純な微分方程式を立て、それを理論的に解析する
  2. コスト関数最小化の問題を考える(主に自由エネルギー原理のこと)
  3. データ駆動的に脳を再現するモデルを作る

があると思っていて、各分類にそれぞれ対応するような方に集まっていただいた。 当日プログラムは各演者の招待講演に加え、パネルディスカッションでそれぞれ良い理論の代表だと考える論文を挙げてもらって、上の3分類との対応を議論する、というふうに企画した。 狙い通りというべきか、事前の打ち合わせでは以下の通りドンピシャの論文が挙げられた:

  1. MaassのEcho state network論文
  2. FristonのFEP論文
  3. Lappalainenのハエコネクトーム論文

演者の研究と上の論文について予習してパネルディスカッションの流れを作った。 またポスターを作ったり会場を予約したりもした。 ちょうど期末試験の期間に重なってしまい空き教室が使えなかったので京大の益川ホールを借りた。

当日の発表は非常に面白かった。 先生方に研究集会の趣旨を汲んでもらって期待通りの、いや期待以上の話が聞けた。 聴衆からたくさん質問が出たのも良かった。 しかしパネルディスカッションは時間が押したのもあって思うような議論ができず、先生方の研究観を十分に引き出すことはできなかったと思う。 そもそも完全燃焼を期待するのが無理筋だと達観したくなってしまうが、この研究会の目的があえて根本的な問題を議論するということだったのを踏まえるとやっぱり悔いは残る。

研究集会の準備を通して自分は次のようなことを考えていた: 脳は感覚情報を処理して知覚・内的世界の形成・意思決定を行っている。 したがって脳を理解するためには情報を処理するモデルを作ることが有効である。 ただし、同じ情報処理を行うモデルは唯一とは限らないので、その方法が脳で採用されている方法(表象される変数の取り方、結合構造、時間発展など)に似ているようなモデルを作る必要がある。 つまりwhatを調べて入力から出力を予測するだけでなく、howも調べないと脳を理解できない。 ここで微分方程式やニューラルネットの表現能力は高いため、変数の取り方やアーキテクチャを指定したとしても関数形とパラメータのフィッティングによって非常に多様な振る舞いが再現できてしまう。 したがって微分方程式やニューラルネットで脳の応答が再現できたからといって、そのモデルの変数やアーキテクチャに対応するものが脳内に存在して機能しているかはわからない。 理論神経科学の役割は可能なモデルの候補を(様々な意味で)絞り込むことにある。 特に、3人の演者が挙げた3つの論文は、この問題にそれぞれ別の方法で取り組んでいるように思われる。

研究集会が終わってみるとwhatとhowの区別は不十分というか本質ではないかなと思えてきた。 特に寺前さんが強調していた、理論をやるからには豊かな数学的構造を開拓するべき、という論点が印象に残った。


さて研究集会といえば懇親会がつきもので、こちらの幹事もなかなかスリリングで面白かったから備忘録として書いておく。 参加者にとって一番楽なのは参加登録フォームで懇親会の希望をとって当日受付で集金するという方法だけど、これでは当日欠席の人から取り漏らしてしまう。 実際に別の機会でドタキャンが問題になっていたので、今回はPeatixという集金サービスを用いることにした。

当然だがそのためには懇親会参加費をあらかじめ設定しなくてはならない。 金額を決めて参加を受け付けるまで懇親会の人数が読めないが、人数が決まらないと店と金額が確定しない、というブートストラップ問題になっている。 また学生参加費を抑えるために学生と教員に金額の差をつけて帳尻を合わせたいという要請もある(個人的には懇親会費が4000円を超えると抵抗があるが、3000円台で飲み放題ができるお店は少ない)。 さらに集金した中から外部サービス使用料7%を払う必要もある。 そんなわけで金額設定は一筋縄ではいかない。

この問題が数学的に解けるわけではなく、結局見切り発車で学生3500円、教員4500円と設定した。 また使用料を最小化するために面識のある人からはなるべく手渡しで集金した。 そんなこんなで参加者24人、集金総額は89,000円、サービス使用料が3,680円、2時間飲み放題コースが合計84,000円、当日の飲み物代が1313円、お釣りが7円だった。 やったこれで完璧だ、と思ったが、実際は当日キャンセルと当日飛び入り参加があった影響でさらに3500円が持ち越しとなったのだった。 研究集会の主催のみならず懇親会の幹事も初めての経験で、あらためて飲み会の幹事には感謝しようと思った。

何はともあれ無事に終わって良かったと思う。 現地参加およびオンライン参加していただいた100名の皆さん、運営を手伝ってくれた若手の会の皆さん、そして講演していただいた先生方ありがとうございました。

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